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4附属学校園の教諭&大学教員が「デジタル」を議論
―実践報告交えた統合シンポジウムを初開催

 茨城大学教育学部の4つの附属学校園(幼稚園?小学校?中学校?特別支援学校)では、2024年度から共通のキーワードを掲げた実践研究に、学部の教員とともに取り組んでいます。そのキーワードとは「グリーン」「デジタル」「グローバル」「ダイバーシティ」。研究成果をまとめた電子書籍の出版も予定しています。
 あわせて各学校園の実践報告と大学教員との議論で構成するシンポジウムも立ち上げました。初回は去る214日(金)に実施。「デジタル」をテーマに議論を繰り広げました。

 「茨城大学教育学部附属学校園統合シンポジウム 1『デジタル』」と題した今回のシンポジウムは、附属中学校での公開研究会に引き続いて同校内の体育館で行われました。公開研究会の目玉が生成AIを活用した授業実践の公開だったこともり、参加者のみなさんの関心はかなり高い様子でした。

 シンポジウムの冒頭挨拶で、太田寛行学長は、「附属学校園も大事なキャンパス。今日のシンポジウムは、『イバダイ?ビジョン2030』で掲げた、初等教育から高等教育にかけての縦のつながりの教育を具体化したものだ」と述べた上で、「附属学校園のICT教育は大学の学部よりも進んでいる部分もある。そうした取組みをお互いに知り合う機会になれば」と語りました。また、勝二博亮教育学部長は4つのキーワードによる学部と附属学校園の研究の狙いや電子書籍発行の計画について話しました。

DSC_6407.JPG 太田学長

 前半は幼稚園、小学校、中学校、特別支援学校という4つの学校園の代表教員による実践報告です。

 附属幼稚園の白井りえ教諭は、生き物の観察などでも、「まずは触れる、匂いを嗅いでみる、虫眼鏡で見てみるなどの直接的な体験を大切に」しつつ、そこから「『もっともっと知りたい、膨らませたい』という気持ちが出てきたところで端末を活用している」と報告しました。

 附属小学校の菅原慎也教諭は、生活の中でのデジタルメディアとの接触について生徒たちが家族との対話も交えて見つめ直す機会を作りながら、デジタル?シティズンシップの育成を図っているという事例を報告しました。さらに、プログラミングを使ってドローンを動かす実践も紹介。農業や町の見回りなどにドローンが使われていることを学んだ上で、体育館を農地や町に見立ててドローンの最適な動きをグループで考え、プログラミングで制御していくという体験を通じ、算数や理科、社会といった教科での学びを統合して活用することにつながっていると言います。

DSC_6514.JPG 附属小での実践を紹介する菅原教諭

附属中学校の近藤量行教諭は、ChatGPTMicrosoft Copilot、さらに学校教育用に最適化された「トモリンクス」などの生成AIを使った多彩な授業?特別活動の実験的な実践を紹介しました。「生成AIを物知りな友達のひとり、鵜呑みをしないように使ってもらう」と近藤教諭。たとえば論理的な思考を育む国語の授業では、ある主張に対する「反論」を生成AIに考えさせた上で、それを乗り越えるような議論を生徒たちが自ら展開するということを経験させたり、スマホの持ち込みについて話し合う特別活動でも、生成AIなどに保護者など別の視点の意見を聞くといったことをしているそうです。

AJH_GAI.jpg 生成AIを利用した学級活動(附属中の公開研究会)

最後は附属特別支援学校の渡邉崇教諭の報告。Zoomを使って、オリジナルの「ふとくボッチャ」を附属中学校や他の地域の学校の生徒たちと遠隔で楽しんだり、時計が読めず給食を食べるペース配分がうまくできない子どものために、残り時間を可視化するアプリをタブレットで見せたりするなど、ICT端末の活用について「もっとやりたいという感情を育てながら授業を進めたい」と話していました。

DSC_6644.JPG 附属特別支援学校の渡邉教諭

今回のシンポジウムは、附属学校園や教育学部に限らず、大学全体での交流を図る目的もあります。そこでゲストには、技術教育が専門の教育学野?川路智治講師(シンポジウム当時は助教)に加えて、応用理工学野(工学部)の小澤佑介准教授にも登壇してもらいました。小澤准教授は通信工学が専門で、附属小学校?中学校の卒業生でもあります。後半は、毛利靖?附属学校園統括長の進行のもと、4人の報告者と小澤准教授?川路講師がディスカッションを行いました。

 小澤准教授は、大学の工学部においても、生成AIを使いこなしている学生と振り回されているように見える学生がいると紹介。自身も「生成AIをめぐる『教育』として何が正解なのか悩んでいる」とのことから、新たな学習ができるという便利な面と、他方で子どもたちの発達を踏まえて慎重にならざるを得ない面との区切りをどう意識しているのか、現場の教諭のみなさんに質問しました。

 附属中学校の近藤教諭は、「学校の現場の感覚としては、いつでもどこでもAIに触れさせるというのは良くないのではないかとまだ思っています」と吐露。最も多く活用している「トモリンクス」は、授業のときしか使えない、有害な情報は返ってこないなど、安全性と使用時間が担保されているのが利点だと指摘しました。他方、学校単位で利用するには多くの費用を要することから、予算の確保が課題であるという認識も示しました。
 また、毛利統括長から「生成AIを、正解を求めるために使うのではなく、思考を深めるために使っているんですよね」と差し向けられると、「その意味でも、プロンプト(AIに与える具体的な質問や指示、条件設定)が重要。情報をインプットする側が思考を整理し、言語化しないといけない」と話し、それらを念頭においた活用や教育の重要性を指摘しました。

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 また川路講師は、「デジタルが教育に入ってきたことで、学びへの動機づけにつながる新たな価値と、紙だけではできなかった共同での創作活動のような新たな学びが生まれている」と話し、各学校園で生まれている「価値」についても意見を交わしました。

 最後の質疑応答では、プログラミングやAIについての学習経験がない保護者が多い中、学校でのこれらの学びに対し家庭ではどのように接していくのが良いか、という質問がありました。

 附属小の菅原教諭は、親としての自身の経験にも言及しながら、「たとえばプログラミングでドローンを飛ばしたと言っていたら、『それってどんなふうにして動いたの?』などと聞いてほしい。内容がわからないなりに、どういう使い方をしているのかなど質問してあげてください」と話しました。

 毛利統括長は、「プログラミング教育に懸念を抱いていた保護者を教室に案内したところ、言葉をうまく発せられず支援を要する子どもが代わりにAIに話してもらっている姿を見て、印象が変わったようだった」というエピソードを紹介し、「世代が違う保護者や地域のみなさんに理解してもらえるようもっと発信していきたい。デジタルだけが良いというわけではないけれど、子どもたちは22世紀まで生きるんです。上手にデジタルを活用できるような人になってほしいと思っています」と、議論を締めくくりました。

 「デジタル」をテーマにした教育学部と附属学校園による電子書籍は、今年7月頃の発行を予定しています。

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