超新星からの電波放射を日本?韓国の望遠鏡で観測
近傍銀河で発見された超新星のVLBI観測網による電波観測の結果と理論モデルの比較から、親星の質量放出が爆発の数十年前から活発化していたことを解き明かしました。この成果は、大質量星の進化過程の解明に貢献するとともに、国内の小規模なVLBI観測網が突発天体の研究において有効な手段となり得ることを示しています。
この研究グループには茨城大学基礎自然科学野/理学部の米倉覚則教授が参加しており、理学部附属宇宙教育研究センターが運用する宇宙電波望遠鏡も観測に貢献しています。
>>くわしくはプレスリリース(国立天文台水沢VLBI観測所Webページ)をご覧ください
超新星は、大質量星が進化の最終段階で起こす大爆発によって明るく輝く天体です。超新星は可視光での観測が一般的ですが、時折電波放射を伴うものも観測されます。爆発前の大質量星である親星が周囲にガスを放出し形成された星周物質と、爆発により飛び散った親星の残骸が、衝突することによって電波放射を生じると考えられています。したがって、超新星の電波の明るさの変化を時間とともに観測することで、星周物質の濃淡が分かり、親星がどのように質量を失い爆発に至ったのかという大質量星の進化の歴史をたどることができます。
2023年5月19日(世界時間)、山形県のアマチュア天文家?板垣公一さんはおおぐま座の銀河M101に超新星 SN 2023ixf を発見しました。SN 2023ixf はII型と呼ばれる種別で、地球からの距離が約2200万光年と非常に近い超新星です。このような超新星は10年に1度程度しか発見されない貴重な天体であるため、国内外の多くの研究グループが追観測を実施しました。
国立天文台水沢VLBI観測所の岩田悠平特任助教らの国際研究グループは、VERA、日本VLBI観測網(Japanese VLBI Network; JVN)、韓国VLBI観測網(Korean VLBI Network; KVN)をそれぞれ用いて、SN 2023ixfの電波観測を実施しました。茨城大学が運用する日立32m電波望遠鏡と、山口大学が運用する山口34m電波望遠鏡が参加したJVNの観測結果から、爆発の152日後、206日後、270日後の観測で電波放射を検出し、その明るさを測定することができました。VERAやKVNでは検出できませんでしたが、電波強度の上限値を求めることができました。この観測結果を理論モデルに当てはめると、爆発の約30年前から直前にかけて、親星が徐々に激しくガスを放出したことが示唆されました。
今後は、VLBI観測により電波放射源が次第に大きくなっていく様子をとらえ、爆発による膨張運動の測定が期待されます。また、さまざまな超新星について同様の電波観測を行うことで、親星の質量放出の多様性の解明に繋がります。
今回の観測で使用したVLBIは東アジアVLBI観測網やEvent Horizon Telescope などの国際的なVLBIと比較すると小規模ですが、大規模VLBIでは不向きな迅速かつ高頻度での観測の実施や、各VLBIに特有の観測モードを活用することにより、今回の研究成果へと繋がりました。次世代の超大型電波望遠鏡 Square Kilometre Array (SKA) では、広視野?高感度の観測により電波でも超新星のような突発天体が多数発見されることが予想されています。今回の研究成果は、小規模なVLBIがSKA時代における突発天体の時間軸天文学の研究にも有用であることを示したと言えます。
今回の成果は、Iwata et al. "Radio Follow-up Observations of SN2023ixf by Japanese and Korean Very Long Baseline Interferometers" として、米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル?ジャーナル』に2025年1月8日(現地時間)掲載されました。
論文情報
- 論文タイトル:Radio Follow-up Observations of SN 2023ixf by Japanese and Korean Very Long Baseline Interferometers
- 著者名:Yuhei Iwata, Masanori Akimoto, Tomoki Matsuoka, Keiichi Maeda, Yoshinori Yonekura, Nozomu Tominaga, Takashi J. Moriya, Kenta Fujisawa, Kotaro Niinuma, Sung-Chul Yoon, Jae-Joon Lee, Taehyun Jung, Do-Young Byun
- 雑誌名:The Astrophysical Journal, 2025
- DOI: https://doi.org/10.3847/1538-4357/ad9a62